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横浜地方裁判所 昭和38年(行)2号 判決 1963年10月30日

原告 田中勝次郎

被告 神奈川県南県税事務所長

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和三十七年九月十五日付でなした原告に対する昭和三十六年度第三種事業税金六万八千五百二十円の賦課処分は、原告の横浜市所在税理士事務所より生ずる所得金三十万五千六十一円に対する部分を除き、これを取消す。被告が同日付でなした原告に対する昭和三十七年度第三種事業税第一期分金三万三千八百五十円の賦課処分は、原告の右事務所より生ずる所得金十七万八千八百五十一円に対する第三種事業税第一期分を除き、これを取消す。

被告が昭和三十七年十一月十五日付でなした原告に対する同年度第三種事業税第二期分金三万三千八百四十円の賦課処分は、原告の右事務所より生ずる所得金十七万八千八百五十一円に対する第三種事業税第二期分を除き、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、原告は、東京都港区麻布市兵衛町二丁目二十五番地日本税務協会内に弁護士事務所を設けて弁護士業を、横浜市南区共進町一丁目二十八番地に税理士事務所を設けて税理士業を行つているものであるが、右弁護士業の昭和三十五年中の所得は金百三十二万二千五百八十一円、その昭和三十六年中の所得は金百六十九万三千五百八十四円であり、右税理士業の昭和三十五年中の所得は金三十万五千六十一円、その昭和三十六年中の所度は金十七万八千八百五十一円であつた。しかるに、被告は地方税法第七十二条の五十四を適用し、昭和三十六年度第三種事業税については、昭和三十五年中の弁護士業所得と税理士業所得を合算しこれを同年中の前記両事務所の従業員数に按分し、昭和三十七年度分については、昭和三十六年中の前記両所得を合算しこれを同年中の前記両事務所の従業員数に按分し、以つて夫々神奈川県分の課税標準とすべき所得額を算出し、これに基き請求の趣旨記載の通り、昭和三十六年度及び昭和三十七年度第一・二期分の第三種事業税の賦課処分を為した。しかし、前記法条は、同一種類の事業が二以上の道府県にまたがつて数個存在する場合において、所得の都府県別区分が困難となることを予想して、これが区分方法の簡易化を規定したものであると解すべきときところ、弁護士業及び税理士業は全く異なる種類の事業であるうえ、前記のとおり各事業別所得が明らかになつているのであるから、被告が本条を適用したことは違法であり、前記各賦課処分は同法第七十二条第七項及び第七十二条第一項に違反している。よつて、請求の起旨記載のとおり右各処分の一部取消を求める為本訴請求に及ぶと述べ、被告の主張に対し、被告が事業税額の算出に用いた昭和三十五年及び同三十六年中の前記両事務所の従業員数及びこれらに基く税額の計算の結果たる金額は認める、と答えた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

先ず、原告は東京都及び神奈川県に夫々事務所を設けて事業を行つているため、両都県に対し個人事業税納付の義務があるから、両都県の課税につき、仮に地方税法第七十二条の五四第二項により課税標準額を按分して定めることが違法であり、そのため原告主張の通り神奈川県の課税標準額が多額に過ぎたとしても、之に比例して東京都における課税標準額が減少する結果となり、又、右各事業に対する事業税の税率は、事業相互間においても、各都県間においても同一であるから、結局原告の両県において納付すべき事業税の総額には変動を生じないから、原告の本訴請求は訴の利益がないと述べ、

本案につき、原告の主張事実はすべて認める。被告は、原告の主たる事務所は神奈川県内横浜市所在の税理士事務所であると認め、昭和三十六年度第三種事業税については、昭和三十五年中の原告主張の両事業所得を合算し、これから基礎控除額金二十万円を差引いた残額金百四十二万七千六百四十二円を同年中の右両事務所従業員数すなわち弁護士事務所分一名、税理士事務所分四名の割合で按分し、後者の金百十四万二千円をその課税標準とし、年税率百分の六を乗じて原告主張の税額を算出し、原告に昭和三十七年九月十五日付その旨の徴収令書を交付し、昭和三十七年度分については、原告の同三十六年中の両事業所得を合算しこれから基礎控除額金二十万円を差引いた残額を同年中の両事務所従業員数すなわち弁護士事務所分同年各月末現在の従業員総数十二名、税理士事務所分同総数五十一名の割合で按分し、後者の金額金百三十五万三千八百円を課税標準とし年税率百分の五を乗じて年税額を算出し、これを同年度第一、二期分に分割し夫々原告主張の日付で徴収令書を交付したものである、と述べた。

(証拠省略)

理由

先ず、被告は東京都及び神奈川県における個人事業税の課税率が同一である結果原告の事業税の総額には変動がなく、従つて原告の本訴請求は訴の利益を欠く、と主張するけれども、原告は本件につき、地方税法第七十二条の五十四第二項の適用はなく、各事業別にその所在都県において、事業所得額を標準として課税すべきことを主張し、その主張の課税標準額を超える所得部分につき本件課税処分の一部取消を求めるものであるから、被告の右主張は本件につき適切でなく理由がないものというよりほかはない。

次に、原告が東京都内に弁護士事務所を設けて弁護士業を又横浜市内に税理士事務所を設けて税理士業を行つているものであること、その昭和三十五年度及び昭和三十六年度の各事業所得が原告主張の通りであつたこと及び被告が地方税法第七十二条の五十四第二項により、原告の昭和三十六年度及び昭和三十七年度の神奈川県分の課税標準とすべき所得額を夫々原告主張の通り算出し、之に基き原告主張の各課税処分を為したことは当事者間に争がない。

けれども、個人が二以上の道府県において事務所又は事務所を設けて「異なる種類」の事業を行う場合にも、又仮令、特定の場合に、各事務所又は事業所或は各事業の所得が明確に区分されていても画一的に、前記法条に基き、主たる事務所又は事業所所在の道府県知事が事業所得の総額を決定し、これを事務所又は事業所の従業員数に按分し関係道府県の課税標準とすべき所得を定めることができるものと解すべきであるから、本件において前記法条を適用して為した原告に対する前記課税処分には何等違法の点はないというべきである、この点に関する原告の主張はその独自の見解に基くものであり、之を採用することはできない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾巖 小山俊彦 鈴木悦郎)

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